飯久保廣嗣 Blog

米国駐日大使に内定したジョセフ・ナイ氏は、昨年12月の日経新聞主催の「米新政権と日米同盟の課題」というシンポジウムに講演者として出席している。筆者もそのシンポジウムに招待され、参加することとなった。

ご存知のように、ナイ博士は『ソフトパワー』という著書を世に出しており、その中で、ハードパワーとソフトパワーがバランスよくマネージされる状態を「スマートパワー」と呼んでいる。ハードパワーは軍事力であり、ソフトパワーは圧力や強制的な手段を使わずに相手との合意を取り付ける力と、筆者は理解している。

このソフトパワーの考えの延長線上に、日本の外交戦略があるのではないかと思う。日本は憲法9条があり、唯一の被爆国という事実があり、非核三原則を標榜している。これをソフトパワーとして活用することで、国際社会に対して新しい次元の発信ができるのではないかと考えている。

防衛省は、Department of Defenseである。憲法9条下の防衛省の機能は、武力による自国防衛と同時に、ナイ博士が言う、ソフトパワーと組み合わせることが、理想ではなかろうか。それが実現すれば、日本の防衛費は、軍事力強化のみに使うのではなく、ソフトパワー強化にも充てられる。具体的に言えば、国際摩擦や紛争を解決するためのソフトパワーを研究し、確立するための費用を、防衛費の一部として位置付けるのである。これに伴い防衛省の概念も、従来のDepartment of Defense からDepartment of Peaceに発展的な変更できるのではないか。

このような発想を実行するためには幾多の問題があるかもしれないが、世界に類のないチャレンジとして、日本から発信できるメッセージとなりえるかもしれない。外交は外務省、防衛は防衛省という縦割りの発想を転換し、日本の国としての新しい防衛に対する概念を生み出し、世界に堂々と提示していただきたいものだ。

激動の時代を迎えるにあたり、新年のご挨拶を申し上げます。今後とも飯久保廣嗣のブログをよろしくお願いいたします。さて、新年最初のブログは、「日本の問題解決力」について、ひと言意見を述べたいと思います。

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前駐米日本大使で現プロ野球コミッショナーの加藤良三氏はある講演会で、「米国の強みの1つとして“問題解決能力があること”を認めなければならない」と、述べている。そして、チャーチルの発言を引用して、「アメリカは大事なとき、ここぞという時に正しい決断をする国だ。但しそこにたどり着くまでにはあらゆる間違った選択肢を尽くすところが問題だ」と、指摘している。

また、昨年、ある民放の討論会で、八代政基新生銀行社長は、「日本経済再生のためには、
あるべき姿に対しての議論も重要だが、直面している問題を明確にして、先送りすることなく解決することも重要だ」と、提言している。そして、ソニーの創立者の一人である盛田昭夫氏は、「日本はプロブレム・ソルビング(Problem Solving)の力をもっとつけなければならない)と、生前に度々言われた。

学者、識者は、現状に対する論評やあるべき姿についての議論はなされるものの、具体的な問題解決の議論はなされないケースが多いのではないか。すなわち、

・あるべき姿と現実の間にある諸乖離や諸ギャップを見出す
・それらを克服し、目的を達成するための諸解決策を考え、そのなかからベストの選択肢を選ぶ
・それを、八代社長が言われるように先送りする事なしに実行する
・その際、実行した場合に起こるかもしれない諸問題点を想定し、諸対策を予め講じておく(問題が起きてからどのように対応するかを論じるのでは遅い)

などのアプローチやプロセスが欠落しているため、日本ではここぞの正しい判断ができず、問題解決が遅々として進まないことが多いのである。

「日本はアメリカの言いなり」と未だに言われる理由にも、日本が問題解決者としての主体的な提言や、日本独自の問題解決に対する選択肢を提示していないことが、その背景にあるのではないだろうか。米国や世界社会の日本への要求に対し、いたずらに“NO”、“NO”の繰り返しでは、問題解決者として同じ土俵に乗ることはできないのである。