飯久保廣嗣 Blog

ニュースとEM法

本日は、筆者の自己宣伝をさせていただきたいと思います。それは、日本経済新聞社より、本年9月8日発刊で『組織で使える論理思考力』という本を出版するということです。

本書の「はじめに」から引用します。

「最近、新聞や雑誌、書籍などで、「論理思考」に関する記述やタイトルがあまり見られなくなった。日本の組織・社会でものごとの筋道を立てて考えることに、人々が関心を持たなくなった証左ではないだろうか。長きにわたり論理思考の普及指導に携わってきた者として、大いに憂うべき状況である。」

「論理思考における思考の手順には深い意味があり、その意味を理解することが、本来の論理武装の本質なのである。そして論理思考の技術を身につければ、どのような局面でも、たとえば不合理がまかり通る組織の内部でも、十分に活用することが可能なのだ。」

「グローバル化が進む時代においては、むしろ論理思考の重要性はますます高まる。日本でのみ有効に通用していた日本人の「思考様式」は非効率的なため、世界では通用しない。組織が抱える不合理性というものをものりこえて応用可能な思考技術について、皆さんと考えてまいりたい。」

できるだけ多くの人に読んでいただくために、手ごろな本にしました。価格も本体定価が850円です。組織の論理と個人の論理にどう折り合いを付けるか。直線的な論理思考を超えて、真に役に立つ「頭の使い方」を、自身の経験に基づく事例を交えて書いたものです。

次回から数回にわたり、本書から引用して、参考になるような内容をこのブログで発信します。

本日(7月9日)のラジオ放送で、「麻生総理が米国オバマ大統領と30分の首脳会談をした」と報道された。そのこと事態はニュースに値するが、両首脳がなぜ会談したかという背景をどうしても考えてしまう。

米国側は上記報道の中身からみて、日本側の顔をつぶさないために、会談を持ったのではないかと思われて仕方ない。なぜならば、ラジオ放送によると、両首脳は、「北朝鮮に対する日米の確固たる抗議の姿勢の確認」、「地球温暖化に対する日米の協力の確認」の2項目について合意を得たと報道されているからだ。

あまり言いたくはないが、両首脳の合意項目はどれほどの意味があるのだろうか、と考えてしまう。私が、麻生総理が言ってほしかったことは、「オバマ大統領が抱えている大きな問題に対して、日本政府もできるだけの協力をする用意がある」ということである。

例えば……

◇核拡散防止の国際協力に、唯一の被爆国である日本が応分の役割を果たす用意がある。
◇世界同時経済危機に対し、継続した両国の協調を維持する。
◇アフガニスタンに対し、日本国は戦争状態の収束を図るために最大限の外交努力をする。
◇途上国の人材開発・育成に日本は積極的な具体案を提示する用意がある。
◇中国対応について米国と日本は共通のアジェンダを設定する。
◇アジアにおける経済発展の日本の役割を明確にし、それを実行する。

など、発信するテーマはいくらでもあったのではないか。

このことを考えると、麻生総理が、オバマ大統領に会った目的は何かと思ってしまう。単なる自己アピールと、自民党の外交手腕に関する広報活動に過ぎないのではないか。そのあたりを、メディアがぜひ取り上げて、本質を論じてほしいものだ。

重工業大手のある工場では、工作機を専門に製造していた。この工場では、7、8台の工作機の組立てを、同時進行で進めている。目下の課題として、輸出向け大型縦型旋盤の製造コストダウンが挙げられていた。

数多くあるコストダウン課題の中で、最も優先度の高いものは、旋盤の台に設置する縦型コラム(工作機械を構成する柱のこと)に関することだった。それはコラムを設置した際に、水平度が設計通りにならないため、そのコラムを取り外し、再加工するという事態が突発的に発生していたということである。この再加工には、数日を必要とし、製造コスト上昇の大きな要因だった。

そこで、この会社は、「大型旋盤のコストダウンに関する改善」を課題として設定した。プロジェクトチームが発足し、問題を起こした旋盤に関するデータが収集され、あらゆる分析を試みられたが、明確な原因を究明することはできなかった。有効な改善策が見出せず、「できるだけ慎重に作業に当たる」といった、漠然とした指示しか出せずにいた。

筆者は、この工場でラショナル思考に関する研修とコンサルティングを実施したのである。その際に、実際に今起きている問題として扱ったのが上記の事例だった。

研修では早速問題解決に取り掛かった。第一の作業は、問題を起こした複数の「大型旋盤」の中で直近の事例をピックアップすることである。つまり、原因究明をする対象を具体的に絞ることであった。その結果、分析対象は「東欧の○○会社向けの旋盤」となった。

そして、その旋盤に対し、ラショナル思考を適用して主な分析結果を試みた。以下に説明したい。

1.問題を起こしている対象は、「東欧の○○会社向けの旋盤」であり、同じ設計の「カナダの△△会社向けの旋盤」には問題が起きていなかった。

2.問題現象は「コラムの設置時の水平度が出ない」であり、その他のコラムに関する問題は発生していなかった。

3.この問題が発生した時期は、「春から夏の時期」であり、「秋から冬の時期」には発生していなかった。

4.分析の着眼点は、「東欧の○○会社向けの旋盤」であり、同じ設計の「カナダの△△会社向けの旋盤」ではない、という一対の事実を重点的に分析することであった。何故ならば、何らかの違いがなければ、一方だけに問題が起きるという現象を説明することができないからだ。

5.上記4の結果、設計、作業工程、作業環境、作業員の熟練度などを比較したが、違いは出てこなかった。しかし、何かの違いがなければ、論理的にこの現象を説明できない。そこで、筆者は、「何らかの違いがあるはず」と、何度も設計・製造担当者に質問を繰り返した。だが、何も出てこないので、資材担当者に対して、「コラムの素材の保管状況に違いがないか」と質問した。
その結果、購買担当者は「東欧○○会社向けは、素材を横に倒して保管していたが、カナダ△△会社向けは縦に立てて保管していた」との回答を得た。

6.上記5の事実と、3の夏の高温状態の組み合わせにより、素材に微妙な変化が起きたことが推定された。そこで、本件の真の原因は、「素材の保管状態が不適切だった」ということが明確になった。

結論をいうと、このように、原因を究明する思考プロセスの基本を習得し、忠実に実践することにより、効率的に原因を究明することができるのである。ちなみに、この分析に使用した時間は、わずか2時間だった。

今回は、論理的思考のケーススタディとして、筆者が実際に関った、米国の中西部に本社を持つ製薬会社で発生した事故とそれへの対応の実例を紹介したい。少々長くなるが、最後までお付き合いいただきたい。

この会社の当時の状況は、高い開発力を持つと同時に、社員を大切にする伝統があり、多くの幹部社員は生え抜きであった。社員第一主義である一例を示そう。筆者が講師を務めた「幹部社員向け問題解決の研修」の会場には、役員が頻繁に使うロッジ付きの会議場施設が充てられていた。このようなことは極めて稀なことであり、筆者は非常に感銘を受けた。

この時のセミナーには、主要事業部の営業部長をはじめ21名が参加していた。しかし、初日の昼食後から営業部長が頻繁に退室をし、グループ全体に落ち着きがなくなった。

原因は、この事業部の主力製品に対し、重要顧客から製品の副作用に関するクレームが発生したことにあった。この営業部長は、部下と協議の結果、当該ロットにより生産された全製品のリコールをすることを決定した。そして、この営業部長は、部下に指示を与えるため幾度も退席をしていたのだった。

そこで、講師であった筆者は、会場で学習中の論理的な原因究明の手法を適用することを提案した。だが、すぐには採用されなかった。しかし、セミナー終了後の午後8時半にこの営業部長と開発部長を説得し、論理的な考え方を適用し体系的に原因究明を展開することの承諾を得た。

ただし、営業部長や開発部長は、当初、製薬関係に全くの素人である筆者が、原因究明の考え方のプロセスだけで、その原因を短時間で究明する作業を展開することに、大きな不安を持っていた。

筆者はこの不安を払拭する自信があった。何故なら、筆者の胸には、恩師であり友人であるC.H.Kepnerが与えてくれた言葉が常にあったからだ。その言葉とは、

「論理的かつ体系的な思考の枠組みに、忠実にしかも現実的に常識を持って問題を分析すれば、必ず成功裏に正しい回答が出る」

というものだった。

半信半疑でこの分析に加わった営業部長以下関係者は分析が進行するに従って真剣になってきた。筆者は、論理的な思考プロセスの枠組みを忠実に実践的に解釈し、当該問題の原因を究明するために必要な情報を収集する質問を繰り返していたに過ぎない。その結果、専門的な内容の情報が質問の回答として分析シートに記述されていった。

大きなハードルは営業部長が今回の問題の原因は製品に使用されたロットに原因があると決め付けていたことである。分析の目的はこの仮説が正しいかどうかを検証するともに、新たな真の原因を究明することにあった。この場合の「検証する」という作業は、同じロットを使用した製品で他の病院で問題現象が発生していないことを証明することである。

確認する項目は5項目であり、「何が」、「どうした」、「いつ」、「どこで」、「どの程度」である。それと同時に、問題現象が発生していない製品や現象などについても、情報を収集することが必要となる。

その結果以下のような情報が整理された。

「何が」に対しては、「『Aロット』であり、『Bロット』ではない」。
「どうした」に対しては、「副作用であって、製品そのものの欠陥ではない」
「いつ」に対しては、「○年○月○日であって、それ以前ではない」
「どこで」に対しては、「○○市の○○病院であり、○○市の△△病院ではない」
「どこで」の詳細について、「○○外科病棟であり、△△外科病棟ではない」
「どの程度」に対しては、「1件であり、複数ではない」

上記の分析から、もしロットが原因であれば、「どこで」に対して、説明がつかない。また、△△病院から問題が発生していないことが説明できない。△△外科病棟から問題が発生していないことも同様である。

この分析結果から得られる結論は、「ロットが原因でない」ということである。従って、全製品のリコールという処置は、不適切ということになる。しかし、これでは、分析が完結したとはいえない。そこで、次の分析は、○○外科病棟の当該薬品の使い方と、△△外科病棟のそれと比較して、どのような特徴があるか、調べることである。

その結果、事実として確認されたことは、数日前に、婦長が交代し、その結果、投与される薬品の組み合わせが変更されたということである。従って、この「薬品の組み合わせの変更」が原因ということが想定できた。

営業部長は、翌朝、当該病院に連絡を入れ、薬品の組み合わせを元に戻すと同時に、患者に対しては、副作用を解消する処置をすることによって、問題が解決されたのである。

筆者の自宅の近所に瀟洒なイタリアンレストランが開店した。好奇心から、1ヶ月ほど前、足を運んでみた。料理の味は合格。支配人やシェフ、その他スタッフは友好的で、店には好感を覚えた。またそのときに、支配人との会話の中で、小生のブログの話が出た。

つい、先日もこの店を訪れた。すると、支配人が小生のブログに対し、読後の感想をひと言いった。それは「なんだかわからない」というものだった。支配人曰く、「ブログは日記である」と。調べてみると、ブログは「ウェブログ」の略であり、ウェブや「インターネット」、ログは「航海日誌」を意味する。従って、この支配人は小生のブログを日記であるという期待を持って読み、難しいことが書かれていたことに、違和感を覚えたのだろう。

そこで、今回はこの店が将来更なる発展を遂げるために、どのような発想を持てばよいかを、論理的分析を用いて、解説してみたい。

第1に、スタッフ全員による問題意識や懸案事項の一覧を作ることである。この際ポイントは、解決策や結論を論ずるのではなく、「何をしなければいけないか」、「何が問題になっているか」といった認識を紙に書き出し、共有することである。その中から、支配人が経験とカンをもとに、「何を最初にやるべきか」を判断し、全員の合意を得ることになる。

第2に、同じエリアのより繁盛している店と比較して、何が違うかを支配人自ら観察し、当店の改善項目を明らかにすることである。例えば、店名の表示方法、最寄の繁華街におけるPRの方法、店内のインテリア、レイアウトの違いの認識、女性スタッフの有無、マーケティングツール(印刷物等)の違い、などが挙げられる。これらに対して、どのような改善ができるかを検討するのである。ポイントは、比較する店が適切なものでなければならないということである。

第3に、当店の特徴、強みの再認識である。つまり、「当店はひと言でいうと、こういう店です」というキャッチコピーを作るのである。その際は、このキャッチコピーを決定する前に、「このコピーに決めた場合、どんなマイナスがあるだろう」と、考えることがポイントとなる。とんだ落とし穴があるかもわからないからである。例えば、「他店が類似のコピーを使っている」などだ。

第4は、リピート客確保を大々的に展開することである。当店は、初めて来店したディナーの客に対し、朝食用のお土産としてロールパンのサンドイッチを無料で提供している。これ事態、非常に客から見れば魅力あるサービスだ。こうしたことを、よりPRすれば集客につながるのではないか。またどうせなら、お土産を渡すときに、記帳してもらう洒落たノートを用意してはどうだろうか。サービス券を発行するのも一つの方法かもしれない。

第5は、このような努力をしたにも関わらず、結果がでない場合にどうするかを、予め検討しておくことである。簡単に言えば、第2、第3の手を考えておくということだ。

第6に、行動を起こすときに「何のために、どのような目的があって、その行動を起こすか」という、意識を持つことである。例えば、「お土産を出す目的は何か」、「朝5時まで営業する目的は何か」といったことである。

現実を見て、比較をして、目的意識を持って改善策を実施し、起こり得るマイナス現象に対して準備をするために、2次、3次の手を考えておく。これは論理思考の初歩中の初歩といえる。論理思考は身近な問題にも応用可能なのである。

どうでしょう、参考になりましたか? ぜひ次回うかがったときに、今回のブログの感想を聞かせてもらえればと思う。

人間はモノを決めるときに手段に短絡する習性がある。多くの場合はこれで問題なく社会生活を円滑に送ることができる。「昼食を何にするか」、「どこに遊びに行くか」、「何時に就寝するか」、などの判断は直感的であり、深く考える必要はない。しかし、テーマによっては、「何のために?」という目的を、深く考える必要がある場合もある。

目的と手段を混同すると、堂々巡りが始まり混乱や対立を招く。じっくりと目的を考えてから、最適な方法や手段を選ぶことが合理的な場合もあるのだ。

確かに、目的を意識しないで手段の上達に邁進する場合もあるが、その結果、多くのムダを生むこともある。その代表的な例が「ビジネス英会話」の学習であると思う。その真の目的は何だろうか。「外国人との英語による意思疎通を円滑にすることがビジネス英会話を学習する目的」と思っている人が多いことに驚く。

ビジネス英会話の学習の目的が、このような生易しい発想では上達はおぼつかない。そこで、何のためのビジネス英会話かを明確にしたい。ある人は、「それはコミュニケーションのためである」という。また、「英語は国際ビジネス用語であるから」ともいう。「これからの国際化時代の重要な条件であるから」という人もいるだろう。しかし、このような曖昧なことでよいのだろうか。

筆者の恩師(故人・米国人)はあるとき、人間が最も生き生きと活動していくためには5つの条件が必要であると言った。それは、Purpose(目的)、Perspective(将来の見通しや展望)、Increasing Skill(自分の諸スキルの強化)、Joy(悦び・満足感)、そして、Sense of Belonging(帰属本能が満足されている)であると教えてくれた。

これを、ビシネス英会話の学習に当てはめて見るとどうなるか。その第1としての目的は「問題解決の真剣勝負に勝つためのである」といえよう。ある人は、ビジネスとは「平和時における戦争の形態」とまで言い切っている。ビジネス戦争に勝つために有効な武装が英語力であるという認識を持つことが重要で、それが目的の1つとなる。

第2のPerspectiveであるが、これは「現在の自分の実力から出発した学習計画」ということができる。英会話はヒアリングからという考えがあるが、日本人にとって必要なことは「発信する」、「発言する力を強化する」ことではないか。ヒアリングで理解できないことがあれば、質問をして確認することができる。肝心な事は、今の自身の実力レベルでできることを完全にものにすることである。中学や高校の英語の教科書をつかえることなく、スムーズに読める人が果たして何人いるだろう。これができるだけでも発信に自信が付く。Perspectiveは現実的なところから始めるべきである。

第3のIncreasing Skill とは、「自身が立てた目的に対しての進捗度を確認すること」であり、それが次の第4にあたるJoyに繋がる。Joyは単なるHappinessではなく、努力の後にある満足感のことかもしれない。最後のSense of Belongingは帰属本能であり、英会話の場合、「話をする相手を持つ」ということである。英語を使う相手を、英語を母国語とする人に限定することは誤った先入観である。アジアの人たちとも大いに語らったらよい。

結論的にいえば、ビジネス人にとっての英会話学習目的は、英語によるコミュニケーション力をつけることや漠然とした願望というものではない。厳しい国際ビジネス戦争に打ち勝つための問題解決を有利に展開するための不可欠な武装であるという認識が、まず必要である。そして、英会話力のもう1つの側面は、相手に質問をすることである。そして、できれば問題解決のための論理武装を背景とした質問力まで身に付けることが本当の目的ではないだろうか。