飯久保廣嗣 Blog

人間はモノを決めるときに手段に短絡する習性がある。多くの場合はこれで問題なく社会生活を円滑に送ることができる。「昼食を何にするか」、「どこに遊びに行くか」、「何時に就寝するか」、などの判断は直感的であり、深く考える必要はない。しかし、テーマによっては、「何のために?」という目的を、深く考える必要がある場合もある。

目的と手段を混同すると、堂々巡りが始まり混乱や対立を招く。じっくりと目的を考えてから、最適な方法や手段を選ぶことが合理的な場合もあるのだ。

確かに、目的を意識しないで手段の上達に邁進する場合もあるが、その結果、多くのムダを生むこともある。その代表的な例が「ビジネス英会話」の学習であると思う。その真の目的は何だろうか。「外国人との英語による意思疎通を円滑にすることがビジネス英会話を学習する目的」と思っている人が多いことに驚く。

ビジネス英会話の学習の目的が、このような生易しい発想では上達はおぼつかない。そこで、何のためのビジネス英会話かを明確にしたい。ある人は、「それはコミュニケーションのためである」という。また、「英語は国際ビジネス用語であるから」ともいう。「これからの国際化時代の重要な条件であるから」という人もいるだろう。しかし、このような曖昧なことでよいのだろうか。

筆者の恩師(故人・米国人)はあるとき、人間が最も生き生きと活動していくためには5つの条件が必要であると言った。それは、Purpose(目的)、Perspective(将来の見通しや展望)、Increasing Skill(自分の諸スキルの強化)、Joy(悦び・満足感)、そして、Sense of Belonging(帰属本能が満足されている)であると教えてくれた。

これを、ビシネス英会話の学習に当てはめて見るとどうなるか。その第1としての目的は「問題解決の真剣勝負に勝つためのである」といえよう。ある人は、ビジネスとは「平和時における戦争の形態」とまで言い切っている。ビジネス戦争に勝つために有効な武装が英語力であるという認識を持つことが重要で、それが目的の1つとなる。

第2のPerspectiveであるが、これは「現在の自分の実力から出発した学習計画」ということができる。英会話はヒアリングからという考えがあるが、日本人にとって必要なことは「発信する」、「発言する力を強化する」ことではないか。ヒアリングで理解できないことがあれば、質問をして確認することができる。肝心な事は、今の自身の実力レベルでできることを完全にものにすることである。中学や高校の英語の教科書をつかえることなく、スムーズに読める人が果たして何人いるだろう。これができるだけでも発信に自信が付く。Perspectiveは現実的なところから始めるべきである。

第3のIncreasing Skill とは、「自身が立てた目的に対しての進捗度を確認すること」であり、それが次の第4にあたるJoyに繋がる。Joyは単なるHappinessではなく、努力の後にある満足感のことかもしれない。最後のSense of Belongingは帰属本能であり、英会話の場合、「話をする相手を持つ」ということである。英語を使う相手を、英語を母国語とする人に限定することは誤った先入観である。アジアの人たちとも大いに語らったらよい。

結論的にいえば、ビジネス人にとっての英会話学習目的は、英語によるコミュニケーション力をつけることや漠然とした願望というものではない。厳しい国際ビジネス戦争に打ち勝つための問題解決を有利に展開するための不可欠な武装であるという認識が、まず必要である。そして、英会話力のもう1つの側面は、相手に質問をすることである。そして、できれば問題解決のための論理武装を背景とした質問力まで身に付けることが本当の目的ではないだろうか。