飯久保廣嗣 Blog

重工業大手のある工場では、工作機を専門に製造していた。この工場では、7、8台の工作機の組立てを、同時進行で進めている。目下の課題として、輸出向け大型縦型旋盤の製造コストダウンが挙げられていた。

数多くあるコストダウン課題の中で、最も優先度の高いものは、旋盤の台に設置する縦型コラム(工作機械を構成する柱のこと)に関することだった。それはコラムを設置した際に、水平度が設計通りにならないため、そのコラムを取り外し、再加工するという事態が突発的に発生していたということである。この再加工には、数日を必要とし、製造コスト上昇の大きな要因だった。

そこで、この会社は、「大型旋盤のコストダウンに関する改善」を課題として設定した。プロジェクトチームが発足し、問題を起こした旋盤に関するデータが収集され、あらゆる分析を試みられたが、明確な原因を究明することはできなかった。有効な改善策が見出せず、「できるだけ慎重に作業に当たる」といった、漠然とした指示しか出せずにいた。

筆者は、この工場でラショナル思考に関する研修とコンサルティングを実施したのである。その際に、実際に今起きている問題として扱ったのが上記の事例だった。

研修では早速問題解決に取り掛かった。第一の作業は、問題を起こした複数の「大型旋盤」の中で直近の事例をピックアップすることである。つまり、原因究明をする対象を具体的に絞ることであった。その結果、分析対象は「東欧の○○会社向けの旋盤」となった。

そして、その旋盤に対し、ラショナル思考を適用して主な分析結果を試みた。以下に説明したい。

1.問題を起こしている対象は、「東欧の○○会社向けの旋盤」であり、同じ設計の「カナダの△△会社向けの旋盤」には問題が起きていなかった。

2.問題現象は「コラムの設置時の水平度が出ない」であり、その他のコラムに関する問題は発生していなかった。

3.この問題が発生した時期は、「春から夏の時期」であり、「秋から冬の時期」には発生していなかった。

4.分析の着眼点は、「東欧の○○会社向けの旋盤」であり、同じ設計の「カナダの△△会社向けの旋盤」ではない、という一対の事実を重点的に分析することであった。何故ならば、何らかの違いがなければ、一方だけに問題が起きるという現象を説明することができないからだ。

5.上記4の結果、設計、作業工程、作業環境、作業員の熟練度などを比較したが、違いは出てこなかった。しかし、何かの違いがなければ、論理的にこの現象を説明できない。そこで、筆者は、「何らかの違いがあるはず」と、何度も設計・製造担当者に質問を繰り返した。だが、何も出てこないので、資材担当者に対して、「コラムの素材の保管状況に違いがないか」と質問した。
その結果、購買担当者は「東欧○○会社向けは、素材を横に倒して保管していたが、カナダ△△会社向けは縦に立てて保管していた」との回答を得た。

6.上記5の事実と、3の夏の高温状態の組み合わせにより、素材に微妙な変化が起きたことが推定された。そこで、本件の真の原因は、「素材の保管状態が不適切だった」ということが明確になった。

結論をいうと、このように、原因を究明する思考プロセスの基本を習得し、忠実に実践することにより、効率的に原因を究明することができるのである。ちなみに、この分析に使用した時間は、わずか2時間だった。