飯久保廣嗣 Blog

世界のどの国でも、外交は利害関係の対立から緊張や論議をもたらすことが当たり前で、友好関係が損なわれる場合もあると認識しなければならないと思います。それ故に関係する当事者の意思決定や決断は合理的であり、そしてスピーディーです。

ある講演会で米英関係の話を聞いたとき、米英同盟は常に緊張と対立の連続であると講演者は言っていました。また、これはアジア諸国でも同じことであり、例えば米韓関係では、韓国はFTAで米国と対立しましたが、合理的な判断を下し、短期決着を実現しました。よほど混乱に陥っていたり、一歩も譲れない利害対立がある場合は別にして、欧米でも、アジアでも、その他の地域でも、ほとんどの国が緊張感を持ってスピーディーな解決を図っています。

しかし、日本だけは全く異なります。友好関係を維持することに過剰なまでのウエイトを置きます。日米関係でも友好が何よりも優先され、対等な立場で緊張感を持って議論する場面はあまり報道されません。その結果、問題解決は先送りされ、決着に非常に時間がかかるようです。そして最後は自国の主張や信念を曲げ、相手の意向に沿う行動を起こす場合が多い。日本だけなぜ、このようなことが起こるのでしょうか。

これは日本人の思考様式に関連するといえます。国内において、利害が対立した場合、どのようなプロセスをもって、解決するのが一般的かを考えてみてください。例えば難題を押し付けられた側の相手への対応は、おおよそ次のようなプロセスで処理されるのではないでしょうか。

①様子を見るこれは問題が自然消滅するのを待つか、相手の要求を無視するということ。
②説明を試みる様子を見てダメな場合は状況や実態の説明を試み、それにより、解決を図る。
③理解を求める説明して解決しない場合は、相手に理解を求める。この場合どのような役職が理解を求めに赴いたかということが重要なポイントになる。
④譲歩するそれでも決着しない場合は、譲歩することによって問題を解決する

というプロセスが日本ではごく当たり前に実行されているのです。しかし諸外国は違います。例えば国、天安門事件において、私の推測では、中国側はこの4つの対応を選択肢として捉え、①の無視をするという行動を選んだと思われます。もちろん、ことの良し悪しは別です。しかし、中国は一度選択した後は、それを不動のものとし、いくら米国が人権問題で追及しても、説明もしなければ、理解を求めることもしなければ、まして、譲歩する姿勢などは全く見せませんでした。

日本も、①無視、②説明、③理解、④譲歩、という選択肢の中から最適な案を選び、それを徹底するということが、必要なのです。従来の日本的思考パターンを続けていては、結局双方に不信感を募らせることになります。相手側は、最終的に譲歩するのならなぜ最初から速やかに譲歩しないんだと憤りを感じることでしょう。かたや日本側は、時間をかけて十分討議し譲歩をしたのに、なぜそれなりの評価をしないんだという不満につながります。

日本的な問題処理方法が適切な場合が皆無とは言いません。しかし、外交や海外企業との交渉では多くの場合、合理的に適切な選択肢を選んで解決を図るという方法がベターなのではないでしょうか。ちなみに、緊張関係の連続である米英外交がなぜ取り返しのつかない事態にならないのか、という質問に対し、講演者は次のように答えていました。「最終的にはreason(理性)を持って、解決をしている」。このコメントは非常に印象に残りました。

日米問題の決着で第4の選択肢である「譲歩」をただちに選んだとすると、議員や国民からなぜそうやすやすと譲歩をするのだと批判を受けるというジレンマは確かにあります。しかし、これを克服しない限り、日本との問題解決は論理的に、理性的に進めることが困難であるというレッテルを貼られる可能性が高く、私はこのことを強く危惧するのです。