飯久保廣嗣 Blog

これからはますます異文化間のコミュニケーションが議論されることになる。文化の違い、考え方の違い、習慣の違いなどをいかに乗り越えるかが、そのテーマだ。これは結構なことである。相手を知ることにつながるからだ。ただし、相手の文化や考え方を完全に理解することはできないということも、心得ておく必要がある。

一方で、異民族間の問題解決や意思決定には、コミュニケーションという手段を使わない。「利害不一致」となるため、それは「戦い」となる。

共通の武器は論理(ロジック)になる。そのロジックを使う時に、日本人の考え方に致命的に欠落しているアイデアがいくつかある。英和辞典にはそのアイデアを表す英語が掲載されているが、その訳語が適切でないために全く使われていないのが現状なのだ。これでは、交渉の場で「戦えない」。

その1つがConsequenceという概念である。英和辞典で引くと、「結果」とある。この訳語では不十分である。ロジックとして全く使いものにならない。

日常生活のシーンを例にとって説明してみることにする。新しい住宅を少し無理をして購入するとしよう。前述の英和辞典的発想でConsequenceを使えば、「もし購入した場合の『結果』はどうなるか」と問うことになる。この発想ではロジックを展開できない。本来の意味でのConsequenceを働かせれば、「そんなに無理をして大丈夫なのか」、「ローンを返済することができるのか」、「できなかったらどうなるのか」、「家庭が崩壊したらどうするのか」などとなる。

実は、ここに列挙した現象は、「ある行動をした場合に起こり得る結果」なのである。英和辞典でいう単なる「結果」とは概念が違う。

すこし詳しく英和辞典を引いても、1.結果、結末、影響。2.影響力、有力、重要さ、重大さ。3.社会的地位(名声)。4.帰結、結論。問題解決や意思決定をする際の重要な概念の説明がこのようであれば、日本人は、異民族と英語で交渉することは難しくなるだろう。新居を購入したら、「結果は? 結末は? 影響は? 影響力は? 帰結は? 結論は?」では、話が通じない。

英英辞典によるとConsequenceとは「ある行動の後に、追いかけてくるもの」(something that follows from an action or set of conditions)である。多くの場合ネガティブなことを想定することになる。情けないことに、このConsequenceを表す日本語さえない。

そこで筆者はこの30年以上前から「マイナス要因」という言葉を使う。意思決定や行動を起こす前に、これをしたらどのようなConsequenceが想定できるだろうか、どのようなマイナス要因が考えられるのかを、問うのである。例えば……

●もしそれが起きたら、どのような被害や損害が起きるのだろうか
●人にどのような迷惑をかけるのだろうか
●社会的にどのような状況をもたらすのだろうか    ……など

よく、「考えて」結論を出したいものだ。特に外国との交渉において、日本人はConsequenceをはじめとするロジックの武器で、思考武装する必要があるのだ。それも、「一刻も早く」である。