飯久保廣嗣 Blog

わが国の食の安全が問われている真っ最中に、米国政府がクローン牛の日本への輸出の将来的な可能性を検討するよう、日本政府に非公式に打診しているとの報道があった。例の「BSE問題」が依然として解決していないのに、である。

これに関し、日本政府は「体細胞クローン牛から生まれた次世代牛について、一般の牛と比較して生物的な差異はない」としている。これは、農水省所管の研究所の調査結果を受けていると報道されていた。

今後、日本の国民は、「アメリカのFDA(米国食品医薬品局)と日本の厚労省が問題ないと言っているのだから心配ない」と言われて、「ああそうですか。わかりました」となる可能性が高いと、私は思っている。まさに、思考停止に陥ってしまうのである。

このやり取りは、日本人の思考様式に主な原因がある。権威者が「問題なし」といえば、そこから先に発想を展開させようとはしない。あらゆる可能性を考えることは面倒だし、お上が言っているのだから、まあそうなのだろうと、盲目的に信じ込んでしまう。さらに、そう判断した相手に対して、疑問や質問を投げかけたり、反論したりすることは、「失礼になる」と思い、考えることを自粛してしまうわけだ。

そして、「もし、なにか不具合が起きたら,総力を結集して対応すればよい」という思いに至る。この日本人独特の思考様式から脱却しない限り、日本は世界社会でますますバカにされることになるのではなかろうか。

そこで、一国民として、日本政府にお願いしたいことがある。本件の日本政府の対応として、「検討は進めます。ところで、もし、クローン牛から問題が発生したら、どんな影響が出て、どのくらい危険なのですか」と、米国側に確認してほしいのである。

また、米政府は米国民に対し、クローン牛の市場への販売を検討していることを、いつの時点で、どのような方法で発表し、どのような反応が消費者からあったかも、確認してほしいところだ。まさか、米国市場に発売する前に日本人にクローン牛を輸出するつもりではないだろう。日本政府が正確に事情を確認しないで、メディアに発表をすると、「米国はけしからん、日本市場を実験台にするのか」という誤解すら招く。

さらに、「万が一日本社会に損害が出た場合、どのような対応や補償をしてくれるのですか」と、問いただしてほしいのである。

将来起こりうることを予測し、その原因を想定し、それらを除去したり、問題が発生したときの影響を最小化したりするための対策を講じておく。この発想は世界の常識である。今回のクローン牛に対しても、改めてこのことを肝に銘じたい。