飯久保廣嗣 Blog

かつて、ハーバード大学の教授だったロバート・カッツ氏は、ビジネス人に必要な3つの条件に、「コンセプチュアルスキル」、「テクニカルスキル」、「ヒューマンスキル」を挙げました。この考え方は、今日でも人材育成の基本として引用されています。しかし、このうちのコンセプチュアルスキルの定義が曖昧で、十分に活用されていなかったり、この概念そのものを除いて、テクニカルスキルとヒューマンスキルだけを必要条件とする場合もあるようです。

私は、コンセプチュアルスキルを次のようなものだと考えます。それは、「ある問題に対して、知識や経験が十分でなくても、問題解決ができる能力」といえます。私はこれを思考技術という日本語を当てはめて使っています。いわゆるコンセプトを発想する能力ではなく、ものごとを抽象的に捉え、汎用的に活用できる考え方の枠組みを指すのです。

また、近年では3つの条件に「ビジョナリースキル」という考え方が追加されるようになりました。何を隠そう、この第4の考え方は、本田技研と私が仕事をしているときに生み出されたものです。当時の本田技研では、創業者の理念をどのように日常業務に反映したり、伝承していくかということが、経営陣の大きな関心事でした。一方で、日本の江戸時代には、家訓があり、代々継承されてきました。そうした、いわば本質的であり、根幹を成す考え方の源泉がビジョナリースキルであり、その育成、修得も必要だと私は考えたわけです。

そして、私はこれらを現代のビジネス環境に合うように整理し、これからの人材育成の訓練領域として、5つの項目を提唱しました。それが、「知識」、「思考技術」、「遂行能力」、「技能」、「理念・哲学」です。

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「知識」については解説の必要はないでしょう。「思考技術」は上述の通りです。「遂行能力」は、“Power to do”のAbilityといえます。「技能」は、手を使ってものを作ることが、創意工夫、改善の原点ということです。そして、「理念・哲学」がリーダーシップを発揮する源であり、これは当然、倫理的な側面を伴います。これらの条件をバランスよく満たす人材開発が、人材育成の目的になるのではないでしょうか。

さらに、国際社会で競争力を保つためには、実は、もう一つの条件が必要です。それは、コンセプチュアルスキルとは対極にある、「本能的な決断力」や「瞬時のひらめき」です。残念ながらこの能力は教育訓練で鍛えるのは難しい。確立された方法論などはない。それは数々の修羅場を成功裏に乗り越えることによって、身に付くものかもしれません。そうであれば、自ら意思決定し、自分でリスクを負い、行動を起こし、問題を解決することの繰り返しで、この能力を高めることができるといえます。意識的に修羅場をつくる、いわゆるチャレンジすることが、これからのビジネス人にとって、より一層重要となってくるのです。